転職のコツ(面接対策)についての情報はインターネット上でも多く扱われていますが、採用側の具体的な評価基準や経営層の視点に特化した内容についても知っておくことでより入念な準備が可能になります。

本コラムでは、多岐にわたる資料、特に現場の経営者の声や採用戦略に関する最新のデータに基づき、「採用される人財」が持つべき要素と、「見送られる人財」に共通する課題について、徹底的に解説します。

大転換期を迎えた薬剤師像の再定義

薬剤師の皆様が直面している現在の医療環境は、まさに「大転換期」にあります。かつて昭和49年(1974年)に「医薬分業元年」を迎えて以来、薬局数は増加の一途をたどり、全国で60,000軒を超え、文字通り「コンビニより多い」状況になりました。しかし、この分業は、政策誘導によって進行した側面が強く、薬局薬剤師一人ひとりの地道な努力や地域住民の信頼によって達成されたわけではない、という厳しい見解も示されています。

国が「対物業務から対人業務へ」と舵を切ったことで、単に処方箋通りに薬を調剤するだけでなく、患者様一人ひとりの健康な生活を確保し、地域コミュニティの中で存在意義を発揮すること が強く求められています。この時代の変化、そして社会保障費の抑制や異業種の参入による競争激化 という厳しい経営環境の中で、薬局経営者が「ぜひ採用したい」と評価する薬剤師と、「今回は見送らざるを得ない」と判断する薬剤師の間には、明確な能力とマインドセットの違いが存在します。

経営者が「ぜひ採用したい」と評価する薬剤師

経営者が採用において重視するのは、その薬剤師が会社の発展や業績向上にどれだけ貢献してくれるか、という点です。そのため、単なる経験年数や調剤スキルといった「薬剤師として当然の能力」よりも、「能力」と「+αの力」が重要視されます。

1.求められる「薬剤師+α」の専門能力

薬剤師の業務が「対人業務」中心へとシフトする中で、求められるスキルは薬学の枠を超えて広がりを見せています。

I. DX/ICTへの適応と経営への参画

薬局経営において、業務の効率化(機械やICTの活用)は特に効果の高い取り組みの一つとして認識されています。電子処方箋の導入など、薬局薬剤師DXは対人業務推進の基盤となっており、デジタル技術への対応は必須です。

  • 〇ITリテラシーと自動化の理解:採用したい薬剤師は、電子薬歴システムやレセコン、自動分包機や鑑査機器 などの機械やICTの活用に積極的に取り組み、業務効率化に貢献できる能力を持っています。逆に、デジタル化の流れに遅れ、ITリテラシーが低いと、今後必要とされなくなる可能性が指摘されています。
  • 〇経営コンサルティング能力:薬局長クラスには、単なる薬学知識だけでなく、薬局全体の経営を改善させるマネジメント力が求められます。決算書を理解し、どうしたら会社の業績が上がるかというコンサル的な能力を持っている薬剤師は、収益性を高める具体的な提言ができ、経営者にとって非常に魅力的です。
II. 継続的な成長意欲と専門性の明確化

医療業界は常に進歩しており、採用したい薬剤師は、一時的ではなく「継続的に自分を高める努力」をしている人です。

  • 〇資格取得と研鑽の姿勢:認定薬剤師や専門薬剤師などの資格は、自己研鑽の姿勢や専門的な知識を有している証明であり、仕事に対する前向きな姿勢を伝えることができます。会社の勉強会やセミナーへの参加、自主的な資格取得への努力といった、高いモチベーションは経営層に伝わり、良い評価につながります。
  • 〇求められる専門性:特にがんや緩和ケアに関する資格、あるいは糖尿病に関する資格 など、国を挙げて問題視されている疾病に対する専門知識やスキルを有していることは、大きなアピールポイントとなります。

2.チームを成功に導くコミュニケーションと協調性

薬剤師の業務は、患者様や多職種(医師、看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなど)との連携が不可欠であり、コミュニケーション能力は必須です。しかし、経営者が求めるコミュニケーション能力は、単に「患者様と話すのが好き」というだけではありません。

  • 〇業務と人間関係を円滑化する能力:コミュニケーション能力とは、「身の回りで起こっていることを円滑に納められる能力」です。調剤薬局は、小さい店舗で同じ人たちが毎日顔を合わせるため、人間関係の課題感が特に強く、チームとしてのパフォーマンスを考え、簡単な挨拶や声かけから周囲との連携(協調性)を重視できる薬剤師が求められます。患者との会話が好きでも、それによって業務が滞ったり、社内で不満を材料にした派閥を生んだりしては、組織全体でマイナスとなります。
  • 〇司令塔的な役割とマネジメント力:コミュニケーション能力を使って、業務を円滑に進めるための指示が出せる「司令塔的な役割」を担える方は強みになります。また、管理薬剤師を目指すなど、も評価されます。薬局長クラスには、部下との信頼関係を築き、目標達成に向けて協力し合える組織を作る能力、そして部下や後輩が自発的に話せるような時間を作る定期的な面談・指導を行う能力 が必要です。

3.専門職としての高い倫理観と責任感

人の生命に関わる医薬品を扱う薬剤師は、現場に出れば経験値にかかわらず「薬のプロ」として扱われるため、高い倫理観と強い責任感が求められます。

  • 〇正確性と集中力:調剤業務は、ミリ単位の計量や処方箋・薬歴からの的確な情報把握、そして似ている薬や違う規格との取り違えに注意する緻密さが必要な作業の連続です。薬の専門家として、常に業務の正確さを確保できる集中力とストレス耐性が求められます。
  • 〇自己責任での判断:採用したい薬剤師は、患者様からの相談に対して自己の責任で判断し、向き合おうとする姿勢があります。処方内容の妥当性を検討し、必要に応じて疑義照会や処方提案を行うなど、薬学の専門家として責任と自信をもって連携することが求められます。

4.独立志向を持つ人材が示す具体的ビジョン

将来、薬局の独立開業を目指す薬剤師は、その志の高さから、経営者も注目する人財です。

  • 〇経営ノウハウを学べる環境への意欲:独立希望者は、社長との距離が近く、直接経営ノウハウを学べる環境 や、売上管理、レセプト請求、スタッフ採用など店舗運営・マネジメントを任せてもらえる環境を選びます。成長著しい会社で新店舗の立ち上げに携わるチャンスを求める方もいます。
  • 〇具体的な開業後のビジョン:開業後の薬局像(在宅、漢方、一般用医薬品など)を明確に持ち、それに応じた具体的な経験とスキルを積める職場を選択しています。
  • 〇資金集めのための計画性:開業資金のため、一定期間、僻地や契約社員といった条件で高収入を得る職場を選ぶといった、計画性も評価されます。
  • 〇独立支援制度の活用:求人情報に「独立・開業支援あり」というキーワードがあれば、フランチャイズ契約、物件の紹介、事業計画作成のサポートなど、具体的な支援内容や過去の実績を必ず確認しています。

見送る薬剤師に共通する「課題」と「言動」

採用を見送る決断をするのは、単にスキルや経験が不足しているからではなく、その薬剤師の持つプロフェッショナルとしての自覚や、組織の士気を下げる可能性のある言動に課題があると判断される場合がとほんどです

1.プロ意識の欠如と受動的な姿勢

薬剤師は、現場に出れば「プロ」ですが、その自覚が希薄で、受け身の姿勢が見られると、組織への貢献や成長が期待できないと判断されます。

  • 〇自ら学ぶ姿勢の欠如:「受け身ではなく自ら学ぶ姿勢が大切」という認識が低い薬剤師は、成長が見込めません。一例として大手薬局の研修制度に慣れすぎると、「これさえしておけば大丈夫」という考えになり、決まったことしかできなくなる可能性があります。今こそ、薬剤師が自らを律した上で将来に向かってどの方向を向くか考える主体性が求められています。
  • 〇責任回避の態度:特定の医療機関の処方箋を受け付ける機会が多い環境に長くいることで、専門職として責任を取ることを重荷と感じている薬剤師はいます。患者からの相談に対し、「それはお医者さんに相談してください」と答えるだけなど、自己の責任で判断することを避け、他に斡旋するような態度は、信頼を失いかねません。
  • 〇現状否定ができない思考:薬局経営においては、指示を「そのままやるのが仕事」ではなく、「もっと変えたら利用者様に良いサービスが提供できるのではないか」「もっと効率よくなるのではないか」ということを常に考えながら業務に取り組む姿勢が求められます。現状に満足し改善を重ねる姿勢のない薬剤師は、変化の激しい時代には対応が難しいと判断されます。

2.患者および職場への敬意の欠如

調剤薬局は、規模が小さく逃同じ人たちが毎日顔を合わせるため、人間関係の課題感が特に強い環境です。職場の士気を下げる可能性のある言動は厳しくチェックされます。

I. 横柄な態度や感情の起伏
  • 〇患者への横柄な態度:患者様に対して横柄な態度を取り、患者様の立場に立つことができない対応をする薬剤師は、患者様の心を開くきっかけを失わせ、後々事故に繋がるリスクも生じさせます。「薬剤師だから、ただ薬を渡せばいい」と思っている態度は、社会人としてもよくありません。患者様が安心して質問できる対応を常に心がける「サービス精神」が必要です。
  • 〇気分に左右されるマネジメント:気分の浮き沈みが激しく、その日の感情によって態度や指示内容が変わる管理薬剤師(薬局長)がいる職場は要注意とされています。スタッフは常に顔色を伺うことになり、ストレスが蓄積され、生産性が低下します。リーダーは感情を適切にコントロールし、安定した判断力を持つべきです。
  • 〇無礼で敬意に欠ける言動:約束や時間を守らない、部下を見下す、挨拶をしないといった基本的な礼儀や配慮が欠如している態度は、職場の信頼と尊重を損ないます。こうした無礼な態度がもたらす職場の生産性低下は甚大であり、互いにリスペクトを持った関係性を築けない職場は、長く働くには不向きです。
II. 責任の押し付けと協調性の欠如
  • 〇責任を押しつける態度:ミスが発生した際に、自分の責任を避け、「お前が悪いんだ」主義で他者に責任を押しつける態度は、職場に「ミスを恐れて何も言えない」という空気を蔓延させます。特に責任感の強い若手薬剤師は精神的に追い詰められやすく、離職やメンタル不調につながるリスクがあります。
  • 〇柔軟性・協調性の欠如:会社やチームの事情(例:近隣店舗へのヘルプ、シフト調整、新しい施策)を理解しようとせず、自分の要望だけを押し通す態度は、チームワークを重んじる薬局では避けられます。無理がない範囲で会社の事情を理解し、シフトの要望に応えるといった周りを思いやった行動が心証を良くします。
III. 採用活動におけるネガティブな要素
  • 〇ネガティブな退職理由:採用担当者は長期間にわたり就業してくれる人を求めているため、面接で前職の人間関係などネガティブな退職理由をそのまま伝えることは避けるべきです。ネガティブな退職理由を伝える場合は、前職での経験から得られた気づきを、転職後に活かしていきたいと前向きな表現に変換して伝えることが重要です。
  • 〇服装や態度:面接時の態度が「採用したいんでしょ?来てあげましたよ」というような横柄な態度である場合、または遅刻や私服での来訪は、勤務も遅刻する/お客様にも適当な態度をとるとみなされ不採用となります。第一印象も非常に重要であり、明るい笑顔での挨拶を心がけるべきです。
  • 〇転職回数が多い場合:20代で2社以上、30代で3社以上といった転職回数の多さは、ネガティブな印象を与える可能性があります。その場合は、自身のキャリアプランを実現するために転職をしてきたなど、一貫性のある説明をすることが心がけましょう。

経営者が実践する人財確保戦略と客観的評価の活用

薬局経営者は、優秀な薬剤師を確保し、定着させるために、戦略的な取り組みを行っています。求職者の皆様は、これらの取り組みの背景にある経営者の視点を知ることで、ご自身の強みをより効果的にアピールするヒントを得られるでしょう。

1.効果的な採用施策の実態と傾向

薬剤師確保のために平成30年度から令和4年度の間に栃木県の薬局が行った取り組みに関する調査結果から、特に効果があったと考える取組が示されています。

項目薬局での効果の割合 (栃木県)全国での効果の割合具体的な取り組み例
8) 薬学生に病院や薬局に就職してもらうための取組 (奨学金返済サポート、実習受け入れなど)9.1% (最も高い)全国では27.9%(病院)、薬局では不明奨学金返済サポート、実習生の積極的な受け入れ、リクルート活動の強化、インターンシップの実施
10) 業務の効率化 (機械やICTの活用、薬剤師以外の職員による対応など)6.0% (2番目に高い)35.0% (全国薬局で最も高い)レセコン/在庫システム/POSレジの導入、錠剤全自動分包機/鑑査機器の導入、事務員による調剤補助業務の活用
1) 薬剤師の待遇改善 (初任給・給与・福利厚生等)3.2%全国では病院で9.2%初任給アップ、時給増、ベースアップ、育児休暇の取得、時短制度、定年延長
5) スキルアップ、キャリア形成のための取組 (研修の実施、学会参加機会の提供等)2.7%認定薬剤師取得支援、外部研修会参加補助、学会参加費(交通費・宿泊費含む)の全額負担
2) 就労環境・制度の改善 (継続勤務できる制度、男女共同参画、子育て・介護支援等)2.7%15.0% (全国薬局で2番目に高い)休みの子連れ出勤、勤務時間の調整、産休・育休取得、時短制度、確実な週休2日制度

このデータから、経営者は特に「薬学生への働きかけ」と「業務効率化による職場環境の改善」に注力し、効果を実感していることが分かります。

  • 〇薬学生へのアプローチ:例えば奨学金返済サポートは、学費が高額な薬学部生にとって魅力的であり、地方への就職のきっかけにもなると期待されています。実習生の受け入れやインターンシップの実施を通じて、自社の状況を内面から知ってもらい、就職意欲を高める取り組みも効果的です。
  • 〇業務効率化(DX):全国的に見ても、業務の効率化が最も効果の高かった取組とされています。機械やICTの活用、事務員による調剤補助の活用 は、薬剤師の対物業務の負担を軽減し、対人業務へ集中できる環境を整える上で非常に重要です。これは、薬剤師の定数を減らせる可能性 や、残業時間短縮につながると認識されています。

2.キャリアパスと人事評価制度の重要性

給与や待遇の改善は重要ですが、それだけでなく、従業員が目標を持って仕事に取り組めるよう、キャリアパスの明確化と公正な評価制度が採用・定着の鍵となります。

  • 〇評価基準の明確化:従業員のモチベーションを向上させるためには、昇給や人事評価の基準が曖昧であることへの不満を解消し、評価基準を明確化することが不可欠です。評価をする側が、店舗ごとの条件や具体的な目標を明確に設定していない場合、それは評価をする問題であると指摘されています。
  • 〇評価の納得感:人事評価制度を導入する目的は、薬局が目指すべき経営目標達成のために、知識やスキル、行動を持った人材にモチベーション高く働いてもらうためです。評価される側が「どのように評価されるのか」が分かるよう、客観的な物差しが必要です。評価基準を定量・定性の両軸で立てること や、「相互協力」といった要素を評価項目に入れ込むこと は、「あなたがやっていることは経営者がきちんと見ている」というメッセージを伝える上で非常に大切です。
  • 〇マネジメント層の育成:若手の研修に注力する薬局は多いですが、マネジメント層のフォローが不足しがちです。リーダーシップとマネジメント能力を持った薬局長がいなければ、優秀な部下の流出につながる恐れがあります。マネジメント層の底上げは、間違いなく会社の力を上げます。

3.採用ミスマッチを防ぐための科学的アプローチ

面接や経歴だけでは候補者の本質的な資質を見抜くのが難しくなっている中で、客観的なデータで個人の資質を測る「適性検査」の導入が注目されています。

  • 〇ミスマッチ防止:適性検査は、候補者の性格や価値観が、企業の文化やチームの雰囲気と合っているか(カルチャーフィット)を事前に予測し、早期離職を防ぐ効果があります。
  • 〇客観的な指標の提供:検査結果は、面接官の主観や経験に左右されがちな評価のブレをなくし、客観的で公平性の高い選考基盤を構築するのに役立ちます。
  • 〇評価のポイント:薬剤師に求められる資質として、調剤過誤を防ぐ高い倫理観と責任感(誠実性、慎重性、規律性)、多職種連携や患者対応に必要な円滑なコミュニケーション能力(社交性、協調性、傾聴力)、そして繁忙時にも正確な作業を継続できる集中力とストレス耐性 が、検査によって測られます。
  • 〇活用方法:適性検査の結果は、面接での質問を深掘りするための材料 や、内定者フォローや配属先の検討材料、さらには入社後の育成計画やマネジメントに活かすための貴重な情報源となります。ただし、検査結果だけで合否を判断することは避け、あくまで参考情報として、他の選考要素と合わせて総合的に判断することが重要です。

未来を切り開く薬剤師へ

薬剤師の将来については、「薬剤師過剰論・不要論」が言われることもありますが、正しいかたちで薬剤師が求められるようになれば、薬剤師には未来があります。しかし、その未来は、行政主導の波に流されてきた歴史を乗り越え、私たち自身が行動を起こさなければ開けません。

経営者は、古い考えに縛られず、新しい意見をしっかりと持ち、主体的に行動できる人財 を求めています。

地域の住民から最も近い開かれた医療機関としての自覚を持ち、「あなたの薬局は本当にその地域でなくてはならない存在ですか?」という問いに、自信を持って答えられる組織を共に作りたいのです。

薬剤師の皆様が、自身のキャリアと人生を消耗させることなく、本来の力を存分に発揮できる職場を見つけ、自ら行動を起こそう とする姿勢こそが、経営者が最も採用したいと考える薬剤師の姿なのです。

ぜひ、本コラムでご紹介した経営者の視点と、時代が求める具体的な能力(DX適応力、マネジメント力、協調性、高い責任感)を参考に、ご自身の持つ強みを最大限にアピールし、未来を共に築くキャリアを実現してください。