目次
はじめに:2026年改定が突きつける「薬局の二極化」
改定の全体像とスケジュールの変更

調剤基本料の抜本改革:立地規制と「包囲網」の完成

地域支援・医薬品供給対応体制加算:統合と再編

対人業務評価の激変:調剤管理料の「2区分化」

かかりつけ・在宅・DXの進化と深化

賃上げ・物価高騰への対応策

まとめ:選ばれる薬局になるための「3つの生存戦略」

はじめに:2026年改定が突きつける「薬局の二極化」

「患者のための薬局ビジョン」策定から10年。国は今回の改定で、長年の課題であった「門前薬局への偏重」と「対人業務への転換の遅れ」に対し、決定的なメスを入れました。 これまでの改定が「誘導」であったとすれば、今回の改定は「強制」に近い強いメッセージ性を帯びています。特に、都市部における薬局の乱立や、医療モール形式での実質的な門前薬局経営に対しては、減算規定の新設や集中率計算ルールの変更など、逃げ道を塞ぐような厳格な措置が講じられました。

一方で、地域医療に貢献し、在宅医療や高度な薬学管理を行う薬局、そしてスタッフの賃上げに真摯に取り組む薬局に対しては、手厚い評価が用意されています。つまり、今回の改定は「機能を持たない薬局」と「地域インフラとして機能する薬局」の二極化を決定づけるものであり、経営者は自局の立ち位置を明確にし、迅速に変革を進める覚悟が問われています。

改定の全体像とスケジュールの変更

プラス3.09%の内訳と意味

2026年度の診療報酬改定率は、全体で+3.09%(令和8・9年度の2年度平均)という大幅なプラス改定となりました。しかし、この数字を額面通りに受け取ることは危険です。内訳を詳細に見ると、その大半が「賃上げ」と「物価高騰」への対応に充てられているからです。

  1. ○賃上げ対応分:+1.70%(ベースアップ評価料等による医療従事者の賃上げ原資)
  2. ○物価対応分:+0.76%
  3. ○光熱費・食費対応分:+0.09%
  4. ○2024年度改定後の経営悪化対応分:0.44%
  5. ○効率化・適正化:▲0.15%(後発医薬品置換え、長期処方・リフィル処方推進等によるマイナス)

実質の診療報酬改定分(本体)は+0.25%です。なお調剤報酬で見ると+0.08%にとどまります。つまり、人件費増や物価高騰分を除いた純粋な技術料等の改定としては、非常にシビアな内容となっています。

施行時期のズレ(薬価4月、報酬6月)への対応

前回の2024年度改定と同様に、スケジュールのズレに注意が必要です。

  1. ○薬価改定:2026年4月1日施行
  2. ○診療報酬(調剤報酬)改定:2026年6月1日施行

薬価は4月から下がる(全体で約▲0.86%)一方で、調剤報酬の新点数は6月から適用されます。この2ヶ月間は、旧点数で算定しつつ新薬価で請求するという期間になります。また、レセコンの更新やマスタの切り替え、患者への説明など、2段階での対応が求められるため、現場の負担軽減に向けた段取りが重要になります。

調剤基本料の抜本改革:立地規制と「包囲網」の完成

今回の改定で最も経営にインパクトを与え、かつ国の「立地から機能へ」という意志を強く反映しているのが、調剤基本料周辺の大改革です。

調剤基本料1・3ハの引き上げと、その裏にある意図

まず、基本的な点数が引き上げられました。

  1. ○調剤基本料1:45点 → 47点(+2点)
  2. ○調剤基本料2:29点 → 30点(+1点)
  3. ○調剤基本料3イ:24点 → 25点(+1点)
  4. ○調剤基本料3ロ:19点 → 20点(+1点)
  5. ○調剤基本料3ハ:35点 → 37点(+2点)

特定の医療機関に依存しない「面分業」を担う調剤基本料1と、医療機関連携型の基本料3ハが2点引き上げられたことは、地域密着型薬局への評価と言えます。しかし、これらはあくまで物価高騰対応の側面もあり、安心はできません。問題は、この基本料1を算定するためのハードルが極めて高くなったことです。

「集中率85%」の壁:基本料2の対象拡大と厳格化

これまで調剤基本料1を算定していた薬局でも、以下の要件変更により、減算対象である「調剤基本料2(30点)」へ転落するリスクが高まりました。

  1. 1.集中率と回数の基準厳格化
    従来は「処方箋受付回数 月2,000回超 かつ 集中率95%超」などが基本料2の対象でした。 今回の改定では、この基準が厳しくなり、「月1,800回超 かつ 集中率85%超」から基本料2の対象となります。 月1,800枚といえば、1日平均70~80枚程度の中規模薬局です。これまで「月2,000枚未満だから集中率が高くても基本料1だった」薬局が、一気に17点(47点-30点)もの減収になる可能性があります。
  2. 2.都市部の新規開局規制
    さらに、特定の地域(政令指定都市や東京23区など)に新規開設する薬局については、半径500メートル以内に他の薬局が存在する場所で、かつ特定の医療機関からの処方箋集中率が85%を超え、月間受付回数が600回を超える場合は、基本料2となります。 月600枚は1日25枚程度です。都市部で新規に門前薬局を開業する際は、最初から低い点数でのスタートを余儀なくされる可能性があります。

【新設】「門前薬局等立地依存減算」の衝撃

今回最大のトピックの一つが、「門前薬局等立地依存減算(15点減算)」の新設です。 これは、既に薬局が多数存在する地域や医療モール内に新規出店する場合、調剤基本料から一律15点を減算するという強力なペナルティです。

対象となる条件(概要):
  1. ○特定の地域(都市部)に所在し、半径500m以内に他の薬局がある。
  2. ○特定の医療機関への集中率が85%を超える。
  3. ○さらに、以下のいずれかに該当する場合:

    • ◇200床以上の病院から100m以内にあり、敷地内等に他にも薬局がある。
    • ◇周囲50m以内に他の薬局が2店舗以上ある。

これにより、既存の門前薬局の近隣に新規出店して処方箋を分け合うようなビジネスモデルや、ドミナント戦略による出店は、収益的に極めて困難になります。

医療モール・敷地内薬局への規制強化と「合算ルール」

医療モールの集中率計算ルールの変更も、多くの薬局を直撃します。 これまでは、医療モール内の各クリニックからの処方箋を別々にカウントすることで、特定の医療機関への集中率が高くならないように調整し、調剤基本料1を維持するケースが見られました。 しかし今後は、「同一敷地内または同一建物内の複数の医療機関」を「1つの医療機関」とみなして集中率を計算することになります。 これにより、医療モール型薬局の多くが「集中率85%超」等の基準に抵触し、調剤基本料2(30点)や調剤基本料3ロ(20点)などの低い区分に移行せざるを得なくなると予想されます。

また、特別調剤基本料A(5点)の対象も拡大されます。

  1. ○これまでは「同一建物内に診療所がある場合」は除外されていましたが、この規定が削除されました。
  2. ○薬局内に「オンライン診療受診施設」を設置する場合も、特別調剤基本料Aの対象となります。

地域支援・医薬品供給対応体制加算:統合と再編

これまでの「地域支援体制加算」と「後発医薬品調剤体制加算」が統合され、「地域支援・医薬品供給対応体制加算」として生まれ変わりました。これは単なる名称変更ではなく、薬局に求められる「参加資格」の再定義です。

後発医薬品調剤体制加算の廃止と統合

これまで単独で存在し、多くの薬局の収益源となっていた「後発医薬品調剤体制加算(1~3)」は廃止されます。その要素は、新設される「地域支援・医薬品供給対応体制加算」の中に完全に組み込まれました。

新設「地域支援・医薬品供給対応体制加算」の5区分

新しい加算は、以下の5つの区分に再編されます。

  1. ○加算1(27点):医薬品の安定供給体制 + 後発医薬品使用割合85%以上
  2. ○加算2(59点):加算1の要件 + 調剤基本料1 + 地域医療への貢献(体制・実績)
  3. ○加算3(67点):加算2の要件 + 地域医療への貢献(相当の実績)
  4. ○加算4(37点):加算1の要件 + 基本料1以外 + 地域医療への貢献(体制・実績)
  5. ○加算5(59点):加算4の要件 + 地域医療への貢献(相当の実績)

「ジェネリック85%」が地域支援の参加資格に

ここで最も重要な点は、すべての区分(加算1~5)において、「後発医薬品の使用割合85%以上」が必須要件となことです。 これまでは、後発品の割合が低くても、地域支援の実績があれば「地域支援体制加算」を算定できましたが、今後はジェネリック医薬品の使用促進に取り組まなければ、地域支援の加算も一切取れなくなるという非常に厳しい設計になっています。 これまで後発品加算1(80%以上)を算定していた薬局も、85%の壁を超えなければ、この新加算の土俵に上がることすらできません。

具体的な施設基準と「供給拠点」としての責務

名称に「医薬品供給対応」が入った通り、以下の体制整備が求められる見込みです。

  1. ○備蓄品目数:一定数以上の備蓄(地域支援体制加算の要件を継承)。
  2. ○供給不安への対応:不足時の他薬局との連携、在庫状況の共有、患者への説明体制。
  3. ○流通改善:単品単価交渉の推進、頻回配送の抑制など。
  4. ○24時間対応・在宅対応:これまで通りの要件に加え、実績要件(夜間休日対応回数、麻薬調剤回数など)が厳格化される可能性があります。

対人業務評価の激変:調剤管理料の「2区分化」

対物業務から対人業務へのシフトを決定づけるのが、「調剤管理料」の抜本的な見直しです。

「日数」から「長期か否か」へ:28日の壁

これまでの調剤管理料は、7日分、14日分、28日分…と日数に応じて点数が階段状に上がっていく4区分でした。しかし、今回の改定でこれが以下の2区分に単純化されます。

  1. ○長期処方(28日分以上):60点
  2. ○それ以外(27日分以下):10点

これは経営に甚大な影響を与える変更です。28日を境に、点数が6倍も変わることになります。

診療科別・処方日数別の経営インパクト分析

  1. ○内科・循環器科など(慢性疾患メイン)
    多くの処方が28日分以上となるため、60点を安定して算定でき、プラス改定となる可能性が高いです。長期処方やリフィル処方への対応を進めることで、さらに効率化が図れます。
  2. ○整形外科・耳鼻科・小児科・皮膚科など(急性疾患・短期処方メイン)
    7日分や14日分の処方が多いため、これまでの点数(14日分なら28点など)から一気に10点へと減額されます。処方箋枚数が多くても、技術料収入が激減するため、大幅なマイナス改定となります。 これらの科目をメインに応需する薬局は、後述する「地域支援・医薬品供給対応体制加算」や「在宅業務」などで収益をカバーする戦略が必須となります。

調剤管理加算の廃止と業務効率化の必要性

さらに、多剤投与の患者に対する管理を評価していた「調剤管理加算(3点)」が廃止されました。 これまで算定できていた点数がなくなる分、業務の効率化を進め、より付加価値の高い「服薬管理指導」や「在宅業務」にリソースを振り向ける必要があります。

かかりつけ・在宅・DXの進化と深化

かかりつけ薬剤師指導料の廃止と「服薬管理指導料」への統合

「かかりつけ薬剤師指導料(76点)」および「かかりつけ薬剤師包括管理料」は廃止されます。 その代わり、「服薬管理指導料」の区分の中に「かかりつけ薬剤師が指導した場合」という評価が組み込まれる形になります(点数は45点または59点)。 一見すると点数が下がったように見えますが、かかりつけ薬剤師による継続的な関わりを評価する新たな加算が用意されました。

  1. ○かかりつけ薬剤師フォローアップ加算(50点、3月に1回):来局間隔が空く患者に対し、電話等で服薬状況を確認・指導した場合。
  2. ○かかりつけ薬剤師訪問加算(230点、6月に1回):患者宅を訪問し、残薬整理や服薬管理指導を行った場合(在宅点数との併算定不可)。

これにより、かかりつけ機能は「窓口で選ばれる」だけでなく、「継続的にフォローし、時には訪問する」という実質的な活動が評価されるようになります。

1,000点の衝撃:「服用薬剤調整支援料2」と薬剤レビュー

減薬提案を評価する「服用薬剤調整支援料2」が見直され、かかりつけ薬剤師が専門性を発揮してポリファーマシー解消(処方内容の調整)を提案した場合の評価として、1,000点という破格の点数が設定されました(施行は令和9年6月から)。 これには「高度な専門性を有する薬剤師」「十分な研修の受講」などの要件がつくと見られますが、薬剤師の職能が「調剤」から「処方設計への介入」へと高度化することを象徴する点数です。

在宅医療の点数引き上げと「多職種連携」の評価

在宅業務においては、「在宅薬学総合体制加算」が以下のように見直されます。

  1. ○加算1(30点):基本的な在宅体制。
  2. ○加算2(50点または100点):実績と人員配置。「単一建物診療患者が1人」の場合に高い評価(100点)がつく見込みです。これは、施設在宅よりも手間のかかる居宅(個人宅)への訪問を促す狙いがあります。

また、以下の新設項目により、医師や他職種との連携が強く推奨されています。

  1. ○訪問薬剤管理医師同時指導料(150点):医師の訪問診療に薬剤師が同行した場合。
  2. ○複数名薬剤管理指導訪問料(300点):困難事例等に対し複数名で訪問した場合。
  3. 在宅患者訪問薬剤管理指導料の「算定間隔6日以上」制限の撤廃。

医療DX加算の再編:「電子的調剤情報連携体制整備加算」へ

「医療DX推進体制整備加算」は、「電子的調剤情報連携体制整備加算」へと名称変更され、点数区分も月1回8点に一本化されます。 算定要件として、電子処方箋システムを活用した重複投薬チェックや、マイナ保険証の利用率実績などが厳格に求められるようになります。「システムを入れただけ」では算定できず、実運用での活用が必須となります。 なお、「医療情報取得加算」は調剤報酬においては廃止されます。

賃上げ・物価高騰への対応策

新設「調剤ベースアップ評価料」の仕組みと運用

医療従事者の賃上げを確実に行うため、「調剤ベースアップ評価料(処方箋受付1回につき4点)」が新設されました。 この点数は、全額を薬剤師や事務職員の賃金改善(ベースアップ等)に充てることが要件となります。令和9年6月からは点数が倍増(8点想定)される予定であり、継続的な賃上げが求められます。 算定には事前の計画書提出や事後の報告が必要となるため、早めのシミュレーションとスタッフへの説明が必要です。

「調剤物価対応料」の新設

光熱費などの物価高騰に対応するため、「調剤物価対応料(3ヶ月に1回、1点)」が新設されました。少額ではありますが、薬局経営のコスト増に対する配慮がなされています。

まとめ:選ばれる薬局になるための「3つの生存戦略」

2026年度調剤報酬改定は、薬局経営に「構造転換」を迫る厳しい内容です。しかし、求められている方向性は明確です。これからの薬局が生き残るための「3つの生存戦略」を提示します。

  1. 1. 立地依存からの脱却と「かかりつけ・在宅」へのシフト 門前や医療モールに頼る経営は、減算や基本料の引き下げにより限界を迎えます。待っていても患者が来る時代は終わりました。 かかりつけ薬剤師としてのフォローアップ(電話、訪問)や、在宅医療への積極的な参入(特に居宅・個人宅)により、「地域に出ていく薬局」へと転換する必要があります。
  2. 2. 「ジェネリック85%」の死守と供給体制の強化 新設される「地域支援・医薬品供給対応体制加算」を算定するためには、後発医薬品の使用割合85%以上が必須となります。これをクリアできなければ、経営は立ち行かなくなります。 在庫管理の徹底、他薬局との連携、患者への説明強化により、高いジェネリック使用率を維持できる体制を早急に構築しましょう。
  3. 3. 専門性の発揮とスタッフの処遇改善 「服用薬剤調整支援料2(1,000点)」や「調剤ベースアップ評価料」が示すように、国は「高い専門性を持つ薬剤師」と「スタッフを大切にする薬局」を求めています。 DX化で対物業務を効率化し、浮いた時間を薬剤レビューや多職種連携などの高度な対人業務に充てること。そして、得られた収益をスタッフに還元し、優秀な人材を確保すること。この「人への投資」と「質の向上」の好循環を作れるかどうかが、勝負の分かれ目となります。

6月の施行に向け、自局の現状(集中率、後発品割合、在宅実績など)を正確に把握し、具体的な対策を実行に移しましょう。変化を恐れず、進化する薬局だけが、地域医療の担い手として未来を切り拓くことができます。

(注:本コラムは2026年2月13日時点の答申情報および関連資料に基づき作成しています。詳細は厚生労働省の正式な告示・通知をご確認ください。)