薬剤師の転職活動において、新しい職場での人間関係や業務への適応は大きな不安要素です。特に「忙しそうな先輩に質問してもいいのか?」「こんなことを聞いて怒られないか?」という悩みは、新卒だけでなく、経験者の中途採用(転職者)でも頻繁に発生します。

本コラムでは、先輩に嫌がられず、かつ「この人は仕事ができる」と思わせるための「質問力」について、薬剤師の実務に即して解説します。

はじめに:転職先での「質問」は、薬剤師の寿命を決める

転職が決まり、新しい薬局や病院での勤務が始まると、必ず直面するのが「わからないことだらけ」という状況です。調剤機器の操作、薬歴システムの入力方法、その店舗独自のルール、門前ドクターの処方傾向など、確認すべきことは山積みです。

しかし、現場は常に動いています。先輩薬剤師は調剤や監査、服薬指導に追われ、ピリピリしていることもあります。そんな中で「質問してもいいのかな……」と委縮してしまうことはありませんか? 実は、質問をためらうこと、あるいは下手な質問を繰り返すことは、あなた自身の評価を下げるだけでなく、医療安全上のリスクにもつながります。

「質問力がない人」は、ビジネスの現場において「仕事ができない人」と認定され、重要な仕事を任せてもらえなくなるリスクがあります。逆に、適切な質問ができる人は、コミュニケーションコストが低いと評価され、周囲からの信頼を早期に獲得できます。特に人の命に関わる薬剤師にとって、不明点を放置することは許されません。 本コラムでは、忙しい先輩薬剤師に「こいつはできる!」と思わせ、円滑な人間関係を築くための「質問力」を伝授します。

先輩をイラっとさせる「3大NG質問」とは?

まずは反面教師として、やってはいけない質問の仕方を確認しましょう。これらを避けるだけで、人間関係のトラブルは激減します。

NG1:ググれば(添付文書を見れば)わかることを聞く

「CPAってなんですか?」といった、Google検索や専門書で調べればすぐに答えが出るような「用語解説」を求める質問はNGです。 薬剤師の現場で言えば、「この薬の用法用量は?」「禁忌は?」といった、添付文書やインタビューフォームを見れば即座にわかることを先輩に聞くのは、相手の時間を奪う行為であり、「自分で調べる気がない」「勉強不足」と判断されます。 資料を見ればわかることは質問してはいけません。それは「時間を奪う質問」だからです。

NG2:思考停止の「どうすればいいですか?」

「この処方、どうすればいいですか?」「クレームが来ているんですけど、どう対応しましょうか?」といった、丸投げの質問は危険です。 これは質問ではなく「仕事の依頼」であり、上司や先輩からすると「全部私が考えるの?」と負担に感じ、怒りすら覚えることがあります。 自分の意見を持たずに指示だけを仰ぐ態度は、薬剤師としてのプロ意識の欠如とみなされ、「指示待ち人間」のレッテルを貼られてしまいます。

NG3:タイミングが最悪(いきなり本題)

先輩が監査に集中している時や、複雑な散剤の計算をしている時に、前触れもなく「○○の件ですが……」と話しかけるのはマナー違反です。 相手がどのような仕事をしているかわからない状況で、いきなり質問をぶつけるのは、相手の集中力を削ぐ迷惑行為です。

【基礎編】先輩が答えたくなる「質問の3ステップ」

では、どのように質問すればよいのでしょうか。どんな場面でも通用する「質問の基本型」には、3つの段階があります。

ステップ1:宣言(クッション言葉)

いきなり用件に入らず、まずは「今、質問してもよろしいでしょうか?」「ご相談があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」と宣言します。 これにより、相手は「聞く態勢」を作ることができます。もし相手が忙しければ、「あと10分待って」と調整することができ、お互いのストレスが減ります。 この「ワンクッション」があるだけで、配慮ができる人という印象を与えられます。

ステップ2:現状と仮説の提示

質問をする際は、必ず「現在の状況(背景)」と「自分の考え(仮説)」をセットにします。 「現状が〇〇なのですが、〇〇が上手くいかずに困っています」と状況を伝え、「私は△△だと思うのですが、いかがでしょうか?」と自分の考えを提示します。 単に答えを求めるのではなく、「自分の考えが合っているかの答え合わせ」を求めるスタンスが重要です。

ステップ3:復唱と感謝

アドバイスをもらったら、必ずお礼を言い、内容を復唱します。 「ありがとうございます。〇〇という認識で合っていますでしょうか?」と確認することで、認識のズレを防ぎ、先輩も「正しく伝わった」と安心できます。 この「復唱」を飛ばすと、後でミスをした際に「言った・言わない」のトラブルになりかねません。

【実践編】薬剤師業務における「仮説思考」の組み立て方

薬剤師の業務において、特に重要なのが「仮説思考」です。これを使いこなすことで、質問の質が劇的に向上します。

「確認」と「相談」を使い分ける

質問には大きく分けて、「認識のズレを防ぐための確認」と、「悩みや困りごとを解決するための相談」の2種類があります。

  1. ○確認の質問の例(調剤業務): 「先ほど指示いただいた予製の作成ですが、明日の午前中までに仕上げればよろしいでしょうか?」(期日の確認) 「粉砕指示が出ていますが、配合変化の確認も必要でしょうか?」(手順の確認) このように、相手の意図を確認する質問は、ミスを防ぐために必須です。
  2. ○相談の質問の例(疑義照会など): 「この患者様の検査値と処方内容を見ると、腎機能低下による用量調節が必要ではないかと考えています。医師へ疑義照会を行いたいと思いますが、先輩のご意見をいただけますか?」 このように、自分の判断に対する助言を求めるのが相談です。

「調べたけれどわからない」を行動履歴で示す

自分で調べても解決しない場合、質問すること自体は悪いことではありません。重要なのは「ここまで調べた」というプロセスを伝えることです。 「添付文書とインタビューフォームを確認しましたが、該当する情報が見当たりませんでした。メーカーに問い合わせるべきでしょうか?」 このように行動履歴を添えることで、「こいつはちゃんと努力した上で聞いてきている」と評価され、先輩も快く力を貸してくれます。 特に中途採用者の場合、この「自走する姿勢」が見えないと、即戦力として期待外れだと思われてしまいます。

【応用編】忙しい上司・先輩を攻略する「ボスマネジメント」

職場には、常に忙しそうで話しかけづらい上司や先輩もいます。彼らとうまく付き合うためには、「上司をマネジメントする」という視点が必要です。

質問してもよいタイミングを見極める

上司も人間です。機嫌が良い時もあれば、余裕がない時もあります。 「どんなタイミングだったら機嫌が良くて、質問を受け入れてくれるのか?」を観察しましょう。 例えば、薬局が混雑しているピークタイムは避け、患者さんが途切れた瞬間や、昼休憩の前後などを狙う配慮が必要です。 一方で、「忙しいオーラ」に負けて報告を怠ると、後で「なぜ報告しなかったんだ」とトラブルになるため、緊急性が高い場合は「緊急です」と前置きして、勇気を出して切り込む必要もあります。

上司のタイプを観察する

上司によって好むコミュニケーションスタイルは異なります。

  1. ○結論ファーストを好むタイプ: 「結論から申し上げますと~」と手短に話す。
  2. ○プロセスを重視するタイプ: 経緯を丁寧に説明する。
  3. ○メールやチャットを好むタイプ: エビデンスを残すためにもテキストで相談する。 相手の「癖」を理解し、相手が好む方法でボールを投げることで、コミュニケーションは驚くほど円滑になります。

中途採用・転職者が意識すべき「プライド」と「謙虚さ」

転職しようとしている薬剤師、特に経験がある方こそ注意すべきポイントがあります。それは「前の職場のやり方」への固執です。

「前の職場ではこうだった」は封印する

新しい職場に入ったら、そこでの「新人」です。どんなに経験があっても、「前の職場ではこうしていました」という発言は、新しい職場のルールを否定しているように聞こえ、反感を買う原因になります。 まずは新しい職場のやり方を素直に受け入れ、「郷に入っては郷に従う」姿勢を見せることが、人間関係を構築する近道です。

「ローカルルール」を確認するというスタンス

経験者だからこそ、「基本的なことはわかっているはず」と思われ、放置されてしまうこともあります。しかし、薬局にはその店舗独自の「ローカルルール」が無数に存在します(薬歴の書き方、予製の作り方、在庫管理のルールなど)。 これらを確認する際は、「一般的な方法は存じていますが、この薬局でのルールを確認させてください」というスタンスで質問しましょう。 「確認させてください」という聞き方は、自分の知識をひけらかすことなく、かつ謙虚に教えを請うことができる魔法の言葉です。

まとめ:質問力は最強のビジネススキルであり、医療安全の要

ここまでのポイントを振り返ります。

  1. 1.質問前の準備(リサーチ):添付文書や書籍で調べ、自分なりの答え(仮説)を持つ。
  2. 2.クッション言葉(宣言):「今、お時間よろしいでしょうか?」と相手の都合を確認する。
  3. 3.要点の整理:事実と解釈を分け、何を確認・相談したいのかを明確にする。
  4. 4.感謝と復唱:教えてもらった内容を確認し、感謝を伝える。

質問力とは、単にわからないことを聞く技術ではなく、相手の時間を尊重し、チームとしての成果を最大化するためのビジネススキルです。 特に薬剤師の現場では、独断で進めた結果のミスは患者さんの健康被害に直結します。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と言いますが、医療現場では「聞かぬは事故の元」です。 わからないことをそのままにせず、しかし相手への配慮を持ってスマートに質問する。この「質問力」を身につけることで、新しい職場での信頼獲得と、あなた自身のキャリアアップを実現してください。

あなたが次の職場で、「あの人は質問の仕方が上手いね」「的確で助かるよ」と評価され、生き生きと活躍されることを応援しています。