トピックス
- 「地域薬学ケア専門薬剤師」は、薬局薬剤師を対象に新設された認定制度
- 「認定薬剤師」「薬物療法専門薬剤師」「がん専門薬剤師」の3制度が見直されて誕生した
- 病院等(基幹施設)や薬局(連携施設)で所定の研修を受けることが認定条件となる
日本医療薬学会が、薬局薬剤師を対象に「地域薬学ケア専門薬剤師」制度を創設すると発表しました。それと同時に「認定薬剤師」を「医療薬学専門薬剤師」に改めるなど、既存の制度も見直すことが決まっています。日本医療薬学会の2019年11月の発表内容をもとに、「地域薬学ケア専門薬剤師」の業務内容や、認定の要件を見ていきましょう。
「地域薬学ケア専門薬剤師」新設の経緯
日本医療薬学会は現在、「認定薬剤師」「薬物療法専門薬剤師」「がん専門薬剤師」の3制度を運用しています。しかし、認定薬剤師の要件が厳しく、上位資格である専門薬剤師の足掛かりとして機能していない、薬物療法専門薬剤師の認定者が少ない、薬局勤務の薬剤師を対象にした専門薬剤師制度がないなど、運用にはさまざまな課題がありました。
この状況を打開し、高度な知識・技能と臨床能力を備え、社会から信頼される薬剤師を養成することを目的として新設されたのが「地域薬学ケア専門薬剤師」です。
各認定制度のあり方を再検証した結果、以下の3つの方針が同時に打ち出されました。
- 〇「認定薬剤師制度」を「医療薬学専門薬剤師制度」に変更する
- 〇がん専門薬剤師と薬物療法専門薬剤師制度の整合化を図る
- 〇地域医療を担う薬局の薬剤師を対象とした地域薬学ケア専門薬剤師制度を新たに立ち上げる
認定薬剤師制度の発足から20年以上の期間に、2000名を超える認定薬剤師が誕生しています。しかし、医療技術の進歩に伴い、薬剤師はさらに高度な知識とスキルを求められるようになりました。地域薬学ケア専門薬剤師制度が誕生した背景には、認定要件を整理し、時代に即した認定制度にリニューアルする目的があります。
日本医療薬学会とは?
一般社団法人日本医療薬学会は、薬の専門家である薬剤師が、他の医療関係者と連携しながら薬物療法を実践するために設立された組織です。医薬品を安全に使用し、最大限の効果を引き出すため、医薬品適正使用のための良質なエビデンスの構築などに取り組んでいます。
会員となるのは病院、薬局、製薬企業、薬学教育機関、行政等で働く個人です。医療薬学に関する学理及びその応用についての研究発表を行い、医療薬学を進歩させることで、国民の福祉の向上を目指しています。主な活動には、認定薬剤師、がん専門薬剤師、薬物療法専門薬剤師の認定のほか、「医療薬学」誌の編集・発行、公開シンポジウムの開催、学会賞等の選考・表彰、学術書籍の編集・出版などがあります。
「地域薬学ケア専門薬剤師」を目指すメリット
2019年11月に成立した改正医薬品医療機器等法では、患者や地域住民が自分の状況に合わせて薬局を選択できるよう、所定の条件を満たす薬局に機能の標榜を認める枠組みを設けることが決定しました。その枠組みが以下の2つです。
- 〇入退院時や在宅医療に医療提供施設と連携する「地域連携薬局」
- 〇がんと専門的な薬学管理に医療機関と連携して対応できる「専門医療機関連携薬局」
2つの「連携薬局」は2021年秋に施行される見通しですが、日本医療薬学会は、「専門医療機関連携薬局」の要件である、専門性の高い薬剤師の配置に向けた認定制度を構築するために、「地域薬学ケア専門薬剤師」等の制度を設け、政府主導で進められる薬局機能の明確化に備えました。
日本医療薬学会で専門薬剤師育成委員会の委員長を務める寺田智祐氏は、「病院完結型から地域完結型医療へとシフトし、地域連携の充実が求められる中、インフラ整備や底上げに役立つ専門薬剤師制度として新設した」と説明しています。「地域薬学ケア専門薬剤師」の資格は、地域の医療に貢献できる高い専門性を持つ薬剤師であることの証明となるでしょう。
地域薬学ケア専門薬剤師になるには
地域薬学ケア専門研修施設には、基幹施設(病院)と連携施設(薬局等)の2種類があります。当面の間は薬局が基幹施設として認められることはなく、基幹施設が連携施設と連携する建付となっています。
「病院(基幹施設)」は自施設の薬剤師を対象にした研修に加え、「薬局(連携施設)」から申請のあった薬剤師を対象に研修を行います(連携研修)。地域薬学ケア専門薬剤師の認定を希望する薬剤師は、基幹施設の指導薬剤師による指導を定期的に受ける必要があります。研修期間は5年間で、認定には日本医療薬学会の承認が必要です。
研修施設には所定の資格を持つ薬剤師が在籍することが条件
地域薬学ケア専門薬剤師の認定を受けるには、各研修施設に所定の資格を持つ薬剤師が在籍していなければなりません。
基幹施設 | 指導薬剤師としてがん、薬物療法、地域薬学ケア指導薬剤師のいずれか1名以上が在籍する |
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連携施設 | 各指導薬剤師※1、医療薬学専門薬剤師、薬物療法専門薬剤師、地域薬学ケア専門薬剤師(暫定を含む)あるいは、生涯学習達成度確認試験に合格した薬剤師※2のいずれか1名以上が在籍する ※1 がん、薬物療法、地域薬学ケア指導薬剤師の在籍も要件となりうる ※2 以下の条件を満たしていることが条件となる (1) 日本医療薬学会員である (2) 日本薬剤師研修センター・研修認定薬剤師、日本病院薬剤師会・病院薬学認定薬剤師、日本薬剤師会・生涯学習支援システム(JPALS)・クリニカルラダー5以上、その他日本医療薬学会が認めた認定制度による認定薬剤師のいずれかの認定を受けている (3) 薬剤師生涯学習達成度確認試験合格 (4) 学会発表または論文掲載の研究実績 |
「地域薬学ケア専門薬剤師」の認定要件
地域薬学ケア専門薬剤師の認定を受けるには、以下の条件を満たすことが必要です。
- 〇5年間の研修
- 〇学会発表2回(年会で筆頭発表1回を含む)もしくは論文1報(筆頭)
- 〇地域薬学ケアに関する症例50
- 〇学会等の参加単位を50単位以上など
学会の単位として認められるものには、次のような講義やシンポジウムがあります。
必須 | (1)薬物療法集中講義(15単位)1回以上 (2)年会参加(10単位)1回以上 |
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オプション | (1)がん薬物療法集中講義 (2)日本医療薬学会が主催する薬物療法に関する公開シンポジウム等 (3)日本医療薬学会が主催・共催する教育セミナー (4)日本医療薬学会が認定する他学術団体等主催の教育セミナー |
「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」の認定要件
「地域薬学ケア専門薬剤師」制度において、がん領域の要件を満たし、専門性が認められた場合には「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」として認定を受けることができます。
「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」の認定要件には以下のようなものがあります。
- 〇5年間の研修(基幹施設ががん専門薬剤師研修施設である)
- 〇がん領域に関する学会発表2回もしくはがん領域の論文1報(筆頭)
- 〇地域薬学ケアに関する50症例+がんに関する20症例
- 〇学会等の参加単位を50単位以上など
地域薬学ケア専門薬剤師(暫定)の過渡的措置
地域薬学ケア専門薬剤師の正式な認定要件には「5年間の研修」が含まれていますが、2020年~2024年の申請分は過渡的な要件で、地域薬学ケア専門薬剤師(暫定)の認定を行うことが決まっています。
認定の条件は以下の通りです。
- (1)日本薬剤師研修センター・研修認定薬剤師、日本病院薬剤師会・日病薬病院薬学認定薬剤師、日本薬剤師会・生涯学習支援システム(JPALS)・クリニカルラダー5以上のいずれかを有している
- (2)5年以上の実務歴がある
- (3)申請時に日本医療薬学会員である
- (4)学会発表(筆頭)が1回以上、もしくは論文(筆頭)が1報以上ある
- (5)学会等参加・発表単位を、20単位以上取得している
- (6)1から5の条件を全て満たしたうえで、日本医療薬学会委員会の選考を経て、理事会で承認を受ける
地域薬学ケア専門薬剤師制度の申請・認定スケジュール
地域薬学ケア専門薬剤師制度は2020年中に申請受付が行われ、2021年には初めての認定取得者が誕生する見通しです。薬剤師としての専門性を高めるために「地域薬学ケア専門薬剤師」の認定を受けたい薬局勤務の薬剤師の方は、今後も最新情報に注目しましょう。
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